エネルギーの平衡基準となる方程式は亀裂の成長が発生するかどうかを示すが、亀裂の成長が起きるかどうかは亀裂先端に作用する応力の状態に依存する。
亀裂先端の結合部に作用する荷重がそこの引張強さに達しない限り亀裂は広がらず、たとえ、亀裂が成長するのに十分なひずみエネルギーが蓄積している状態であってもこれは適用される。
例として、亀裂の先端が鈍角もしくは丸みを帯びていた時、亀裂は不十分な応力集中により広がらないと考えられる。
このため、エネルギーの平衡方程式は必要であるが、切れ目が入る状態を表すのには十分でない。
切れ目は、亀裂先端に作用する応力がそこの結合を破壊するのに十分であったときのみ発生する。
亀裂の先端が無限遠に存在すると仮定し、最悪状況における状態に近似することは習慣的である。
しかし、これは厳密には正しくなく、全ての固体に荷重の作用が直接なされた上で破損する。
実際に、「角度が無いに等しい鋭角」な亀裂先端と仮定したことによる応力の特異性は、金属の塑性変形により敬遠される。
それでも、角度が無いに等しい鋭角な亀裂先端として求められる場合、亀裂は裂けるための十分なエネルギーが無く、広がることは無いと考えることができる。
応力が与えられることから、最小亀裂長さが存在しこの長さは自然に大きくなることは無く、それ故「安定」であるといえる。
長さが一様な応力の作用した臨界亀裂長さよりも小さいと亀裂は広がらず、また、臨界亀裂長さは次の式で表される。
式2.4.1aは、どんな大きさの亀裂においても、亀裂先端にかかる応力は無限大となることを表している。これにもかかわらず、負荷応力σaが存在している亀裂の伸びにおいて、グリフィスのエネルギー平衡方程式は満たされる。応力拡大係数K1は数値を与え、その値は亀裂先端の応力特異性の効果の大きさを定量化している。後で見ることになるが、異なる材料でK1の臨界値があり、それはエネルギー平衡方程式に一致している。この場合、K1の臨界値は、異なる材料の破壊応力を特徴づけている。
式2.4.1bにおいて、Yは関数であり、その値は試験片の幾何学的形状に依存する。そして、σaは負荷応力である。無限固体における真っ直ぐな両端亀裂において、Y=1となる。表面の小さな一端亀裂(すなわち半無限固体)において、Y=1.12となる。この12%の補正は、ひずみポテンシャルエネルギーの追加の放出(完全に埋め込まれた亀裂に比べて)によるものであり、これは亀裂近くに自由表面があることで引き起こされている。この場所は図2.4.1の影部分を指している。この補正は亀裂が材料内部に深く伸びることによって、効果が減少する。硬貨状の亀裂が埋め込まれている場合には、Y=2/πである。半無限固体の表面に半分の硬貨状の亀裂がある場合、適用した値はY=0.713となる。一般的な亀裂形状と荷重条件によるYの値は、標準的な工学の教科書で見つけることができる。
式2.4.1aは、エアリーの応力関数についてのウェステルゴールの解から導かれる。エアリーの応力関数は、鋭い先端であり、無限大でρ=0で2軸に荷重がかかる平板に関係する境界条件に従って、応力の均衡方程式を満たす。式2.4.1aは亀裂先端付近の物体にのみ使われる。式2.4.1aのおおよその分析では、σyyは負荷応力σaよりはむしろ、rが大きな値で0に近づくことを示す。亀裂先端から離れた応力の値を得るには、級数解の加法的な項が挙げられる。けれども、亀裂先端の近くで、局所的な応力は大抵他の場所で存在する平均負荷応力よりも、遥かに大きく、誤差は無視してよい。
K1の添え字の1は、図2.4.2に示すように引張加重に関係している。応力拡大係数は、同じ図で示すように荷重のその他の形式として存在するが、私たちの関心は主に形式1の荷重系に集まる。つまり、その形式とは、脆性破壊を起こす最も一般的な形式である。応力拡大係数の重要な特性は、同じ形式の荷重系に対して加法的ということである。これは複雑な荷重系での応力拡大係数は、個別の考えられる荷重によって決められる応力拡大係数の足し合わせによって求められる。
私たちは後に次のことを示す。K1の加法的な特性によって、亀裂のはじめより前の固体に存在する亀裂付近の応力場は応力場の基礎に基づいて計算できる。
式2.4.1bの価値は計り知れない。この式は先端での測定しやすい巨視的変数に関する事象を示している。亀裂先端近くの応力の大きさと分布を分けて考えることができるので、破壊方程式は亀裂先端で応力の「大きさ」または「強さ」を考慮するだけで良い。応力は無限に鋭い亀裂先端で起こる特異性のために「無限」であるかもしれないが、応力拡大係数は特異性の「強さ」の尺度である。