英文輪読第3回

BOUND FOR THE MOON Scientific American 2012.04

佐藤 真平 訳分


ピッツバーグにあるモノンガヒーラ川の、瓦礫が点在しているぬかるんだ土手で、2つのカメラを目としてもつ高さ1m50cmぐらいの四角錐型のロボットが、4つの金属製の車輪のモーターからヒューという低い音を立てながらゆっくり旋回します。

カーネギーメロン大学の生徒たちが、その近くをついていき、ノートパソコンの周りに集まって、ロボットの目から送られてきた世界を眺めています。

パソコンの画面に映る、低解像度のグレースケールの画像の轍のできた景色はとても月に似ていますーロボットが目指す究極の地を。



カーネギーメロン大学のロボット工学の教授、ウィリアム・”レッド”・ウィットカーと彼の生徒たちは、宇宙空間と宇宙飛行技術における技術革新において私企業の役割を大きく後押しするためのコンテストである、グーグル・ルナ・Xプライズに勝利するためレッド・ローバーを製作した。

賞金は2000万ドルで、これは初めて非政府系として月にロボットを着陸させ、ロボットを半マイル程度移動させ、さらに高解像度の動画を地球に送り返すことができたチームに贈呈される。これらはすべて2015年末までに行われなければならない。2位は500万ドルであるが、アポロ計画の着陸地点に到達するなどの

ボーナスミッションを達成することで懸賞金は最大3000万ドルにも達する。

26チームが競い合っているが、ウィットカーのチームは明らかに首位であろう。

彼の会社アストロボティック・テクノロジーは宇宙船と月探査機を運ぶことになるロケットの頭金を支払われた最初のチームとなった。

さらにウィットカーは、きわめて厳しい環境において行動可能な自動制御車両の製作においても優勝者となれることを確信している。


アメリカの宇宙開発プログラムにとって、グーグル・ルナ・Xプライズは大きな転換点となった。2010年、アメリカ有人飛行計画審査委員会の報告における奨励に沿う形で、オバマ大統領はNASAに対して退役するスペースシャトルを代替する、民間により所有・運営される宇宙船計画を奨励するよう命じた。NASAからの投資および着手金を用いれば、民間企業は政府系機関が大きな契約をして作るより早く、より経済的に宇宙船を設計して製造することができるだろう、ということである。

同じような考え方によって、グーグル・ルナ・Xプライズは、高額なワンオフ製作の宇宙船や一任期以上続くことのない政治的約束に頼らない、新しい形の民間惑星探査計画を育成しようと試みている。

研究者たちが民間企業に探査機や機器の打ち上げ費用を支払う代わりに、NASA自らが追加した3010万ドルの奨励金は、政府によって製作され 数々の探査機が悩まされた、たとえば月面の夜を乗り切ることのような技術的困難を乗り越えるために6つのチームに分配された。

このような民間宇宙企業の、グーグル・ルナ・Xプライズ後の命運は堅実とは程遠いものであるし、彼らの事業に対しての市場が存在するかの確信は誰も持っていないが、多くの研究者たちは、商業的資金による宇宙科学の展望に興奮している。



テスト発射


このコンテストは賞金1000万ドルのアンサリ・Xプライズにさかのぼる。コンテストは2004年にスペースシップワンが世界初の民間製造の有人宇宙船として初めて大気圏を脱出したことで終わりを迎えた。

スペースシップワンはロケット機で、カリフォルニア・モハーヴェのスケールド・コンポジッツ社によって、マイクロソフトの億万長者であるポール・アレンからの資金援助を受けて作られた。

ヴァージン・ギャラクティック社が現在はスペースシップツーに投資を行っている。20万ドルを微重力空間での浮遊や地球を遠くから眺める体験に支払うことを厭わない個人個人から、前払金として合計6000万ドル以上をすでに集めている。

NASAは無重力空間での燃料移し替えなどの実験を行うための実験機器をスペースシップツーやその他の宇宙船に載せるため、ヴァージンとその他6つの民間企業と契約を行った。

そして今度は、グーグル・ルナ・Xプライズの主催者達は、この成功を無人惑星探査の分野でも再現したいと考えている。

ウィットカーの様に、幾らかの科学者は月面で動くロボットを作る素質がある。

この63歳の男は、他の誰よりも発展途上のロボット工学の分野での"修行"をつんできた。

自動化された工場の様な制御された環境からロボットを解き放ち、屋外で実用的な作業をさせるという分野である。

1980年、彼は部分的に炉心融解を起こしたスリーマイル島原子力発電所の、破壊され危険な放射能汚染区域を探査するロボットを設計し、制作した。

カーネギーメロン大学のフィールドロボティクスセンターの設立者であり長として、ウィットカーは自動制御ロボットの分野を開拓することで身を立ててきた。

彼は南極大陸の氷原で隕石を集めるロボットや、アラスカや南極来陸の活火山のクレーターの中によじ上っていくロボットを制作してきた。

2007年、ウィットカーは数々の異なるコンテストの中から、グーグル・ルナ・Xプライズに参加することを考え始めた。

カリフォルニア州ヴィクタービルにあるジョージ空軍基地の跡地で開催されたDARPA(国防高等研究計画局)主催のアーバンチャレンジにおいて、ウィットカーと彼の生徒達は、ゼネラル・モーターズ、コンチネンタルやその他のスポンサーと共に"タータン・レーシング”というチーム名で、"ボス"と名の付けられた無人のシボレー・タホで参加した。

世界初の市街を含む自動操縦車のレースにおいて優勝したにも関わらず、ウィットカーは高等可搬型ロボット開発と言う名前の授業の計画を纏めるために時間を無駄にしなかった。このクラスの学習目標は、授業シラバスの中で"月着陸ロボットの詳説、分析とシミュレーションを行い。月探査機プロトタイプのフィールドテスト、企業チャレンジへの挑戦、そしてミッションの進行状況を文章、写真と動画で伝達すること"と書いてある。授業はカーネギーメロン大学のすべての学年・専攻の生徒を対象にしている。同時期に、ウィットカーは営利目的の会社として、アストロボティック・テクノロジー社を宇宙分野での起業家として長年指導的な立場にあるデヴィット・ガンプと共に立ち上げた。ガンプは、積極的に企業のスポンサーと潜在的顧客を追い求めたのに対して、ウィットカーはフィールドロボティクスセンターでの29年間以上に渡る研究によって蓄積された深い知識を提供した。アストロボティック・テクノロジー社のスポンサーの中には、ピッツバーグに本拠地を置くアルコア社もある。アルコア社は探査機を月に運ぶための宇宙戦を制作するのに必要なアルミニウムを提供する。


元海兵隊であり科学者と爆発物のセールスマンの息子であるウィットカーは、彼のチームの作品を月に着陸させることは、彼の経歴における、地上、水上、水中、地中…簡単に言えば地球上のいかなる極限環境においても彼のロボットを見ることが出来たという偉業を象徴するものになるだろうと言っている。

彼の考えでは、月での成功というのは最初に着陸することではないという。すべてのボーナスチャレンジの達成なくしてはアストロボティック社の成功はあり得ないと。「すべてを達成しないということは」彼は続ける、「何も達成しないと同じことです。」



上野 勇人 訳分


ウィットカーのチームは他のXPRIZE参加者からの強い競争を期待している。

ムーンエキスプレスは、カリフォルニアのマウンテンビューに拠点をかまえるチームだ。ムーンエキスプレスは、XPRIZE参加チームの中でもっとも資金を持ったチームかもしれない。そのチームは現在ではアストロボティック社に遅れをとっているが、ナサの協力もあり、遅れを取り戻しつつある。別のチームは、マイケルジョイスが率いるネクストジャイアントループである。ジョイスの会社は、アポロ計画の宇宙船を月へ導くナビシステムや制御システムを開発した、マサチューセッツの技術協会のグループ会社、ドロッパーラボラトリーと提携してきた。ジョイスの会社は、奇抜な“跳ねる宇宙船”を開発中である。その宇宙船は車輪を搭載する必要がない。月面に接しそうになるとエンジンを逆噴射して垂直離陸し、短距離を移動する。その宇宙船計画は、ジョイスが必要なだけの資金を集めることができれば実現しそうである。グーグルルナXプライズ創立者は、参加者たちがローバーの発達や月へのローバーの輸送の計画を実現できれば、新しいマーケットの成長に拍車をかけるということを期待している。例えば、アストロボティック社は、宇宙船の部屋とローバーを250000ドルを統合費とし、1kg1.8〜2ドルで貸し出す計画がある。メリーランド大学の物理学者ダグラス・カリーのような研究者にとって、少なくとも、決まった価格で場所が保障されていることはありがたいことであると話す。カリーと彼の同僚は距離測定用のレーザー反射板の列を月に設置したいと考えている。彼らのレーザー反射板は、アポロが残していったものの100倍正確な制度を持ったものである。ひょっとしたら、グーグルルナエックスプライズの最大の利益は、未来の科学者やエンジニアたちを鼓舞することかもしれない。実際、その競争は、ウィットカーのロボット開発の過程に大きな興奮を与えた。2011年4月、アストロボティックのチームは、カーネギーメロン天体観測所の工場へ急いだ。彼らは現在、宇宙船が月面に着陸した際にローバーを発進させるスロープを船体から切り離す破断ボルトの開発している。卒業生KanchiNayakaと学部生は、三脚の上にハイスピードカメラを用意し、シミュレーションの様子を記録した。学生がスイッチを押すと17.9秒後にボルトは勢いよく分裂した。そしてスロープが開いて地面に降り、ローバーが発進する準備が整った。“すごい!”NayakaKanchiは言った。“うまくいくに違いない!”

佐久間 俊介 訳分


【ROCKET SCIENCE】

ウィテカー氏のアストロボティックス社の宇宙船と月面探査機を手に入れる構想はスペースX社のファルコン9ロケットと共に始まった。劇的な宇宙へのアクセスに要するコストの削減を目的として設立されたスペースXはGoogle Lunar X PRIZEでの成功の鍵となるだろう。ウィテカー氏はスペースX社のロケットはコンペティションにおいてすべてのチームに選ばれる機体になると信じている。私が知る限りアメリカのどの競争者もスペースXに狙いをつけていると彼は言う。

それでも発射のコストはチームにとって唯一の最も高い支出となるだろう。たとえほかのクラスのロケットより支出を抑えたとしてもファルコン9の発射の公表価格は54万ドルで優勝賞金の2倍以上である。スペースX社の競技者は彼らの発射準備の協議に気が進まない。だがスペースX社がすでに衛星コミュニケーション会社のIridiumとの492万ドルの取引という歴史上最も大きな民間での打ち上げ契約によって市場をひっくり返したことは明らかである。ロケットの第二段階のエンジンは宇宙船と探査機を月へのコースへ推進する。その道のりは5日を要する。カーネギーメロン発達した誘導、ナビゲーション、制御ソフトはロケットを正しい方向へ保持するだろう。ソフトはTartan Racing社がアーバンチャレンジ(アメリカの無人ロボット社レース)で勝利を可能にしたコードを基にしたものだ。自動運転と宇宙船の操縦のコンピューターによる挑戦はそれほど違わず、同じ計算が双方の問題を解決しそのソフトウェアも似ている。アストロボティクス社のチームメンバーと博士論文提出志願者の言う、主な違いは機体を誘導するGPSの欠如である。その代わりとして宇宙船は月と地球を基準の星として月への道のりを描く。一度軌道に入ると宇宙船と探査機は月面に降下しなければならない。1969年、宇宙飛行士のニール・アームストロングは大きな岩やクレーターなどの部分的な危険を避けながら月着陸船を軌道上から月面の特定の場所へ操縦した。しかし我々の星と衛星とは25万マイルの距離がありタイムラグが発生する。それは地球上のパイロットのリアルタイムでの操縦を不可能にする。そのため宇宙船のソフトはアームストロングが手動で行ったように自動的に遂行しなければならないだろう。主要な降下用エンジンは月に接近しながら宇宙船を減速させるために燃焼し、その間小型のロケットエンジンが機体の姿勢を安定させる。月の夜が明けた二日後に着陸し、着陸船は二つの傾斜台を展開するだろう(二つ目は始めの物がクレーターや岩にふさがれた時のためのスペア)。折りたたまれた傾斜台を保持するボルトは高温のもとで階段がバラバラになるのに逆らう。宇宙船から地面に降りた後、探査機は月面に転がり落ち双眼鏡の目が先方を見渡す。月面の塵は探査機の車輪が何回転したかを基に正確に進んだ距離を読むには滑りやすすぎる。その代わり探査機のオンボードコンピューターはロボットが動きながら表面の外観の特徴の変化を比較することで距離を計算する。放射線強化物質は空気のない月に降り注いだ太陽線や宇宙線からコンピューターを守るだろう。

 ピッツバーグに戻る。宇宙管制センターのアストロボティック社のチームメンバーは長い月の昼を通して24時間の交代勤務で絶え間なく続く低解像度の画像を使うことでレッドローバーを興味深い表面へ誘導する(望まれているアポロの着陸した場所を含む)。ローバーは自律して月面での危険を避けるだろう。少なくとも着陸後すぐに高解像度の暗号化されたデータのブロックとして発信することがX PRIZEの要件である。

探査機はEメール、ツイート、フェイスブックメッセージもまた送信するだろう。

 チームにとっての大きな技術的挑戦はレッドローバーがそれぞれ地球での二週間の月の昼と夜の温度の極限に耐えることある。月での二週間の夜の間、チームが着陸を計画した場所での月面での温度は昼間の120℃以上から-170℃くらいまで急落する。バッテリーの様に水の痕跡

を含んだいくつかの部品は水が凍り膨張するにつれ修理不能な損傷に苦しむ。昼夜の温度の極限に耐え抜いた探査機は1970年のルノホッズというソビエトの遠隔操作型探査機だけだった。彼らは熱を保つために放射性ポロニウムを信頼していた。しかしアストロボティック社や他のX PRIZEで競っている民間企業はそのような厳重に管理される物質を入手する手段を持っていない。太陽からの熱からレッドローバーを守るため電池を囲むカーボンファイバー構造が探査機表面の外側へ熱を伝導する。夜にはレッドローバーは冬眠しカーネギーメロン大学機械工学科の学生のCharles Munozによって綿密にテストされた非水酸鉄リチウム電池を始動するためw太陽と共に起動される。

 X PRIZEの刺激は安さのイノベーションの一種となる。アストロボティックス社はGoogle Lunar X PRIZEで勝利する見込みがあるとはいえ合同で月面探査機に出資しているロシアやインドからの強豪、中国が自身で建造した夜間でも起動された状態を保つために放射性同位体を使用した探査機と対戦する。もしそれらのうちの一つが最初に月に到達すると優勝賞金1500万ドルに下がってしまう。