英文輪読第5回

PLANNING FOR THE BLACKSWAN Scientific American 2011.06

横山 大地 訳分



日本の福島第一原子力発電所地球の半周も離れたジョージア州の松林の奥深くで、労働者の数百人がアメリカの原子力ルネサンスのための土地を準備している。彼らはまだそれが実現しようとしていると信じている。ブルドーザーはガタガタという音をたてながら最近何マイルにもわたりパイプや排水管埋められ固められた未使用の低い平地を走っている。もし計画が順調に進めば、来年中には2つの新しい原子炉がその地に立ち始めるだろう。最初の原子炉はアメリカで25年以上前に承認された。

それは1979年のスリーマイル島施設での部分的なメルトダウンの後に実質的な停止状態になってしまったアメリカの原子力の新たな発展のスタートを告げる合図となるだろう。それ以来、気候変動による悪影響は原子力の印象を環境の脅威となるものから炭素をださないクリーンなエネルギーの源となる可能性を持つものに変えた。W.ブッシュとバラク・オバマの両大統領は新構造をもたらす期待をもった技術として採用した。米国原子力規制委員会(NRC)は数十年前に建てた104つに加えて、ジョージアの1組とさらに20以上の原子炉を建設する提案を現在再審査している。

それらの新しい原子炉の半分以上(ジョージア州のウェーンズバロにある2つのボーグル1式を含む)がAP1000型となるだろう。AP1000型は、日本で起こったような災害を避けることを意味する受動的な安全装置機能を持つ新世代の原子炉の初期型である。事故が起きたときには、原子炉は核燃料を過熱から守るためにに重力や凝結のような自然の力を利用する。これは福島のプラントには欠けていた機能だった。

ジョージア州の2つのAP1000型は年内にNRCによる建設の承認の最終審査を通過しようとしていたので、それは数ヶ月前までは良い方策だと思われていた。しかし3月の福島での災難でマグニチュード9.0の地震と巨大な津波で4つの原子炉の熱された炉心が冷却液を奪われ露出したため、世論は第一に原子力の大惨事の可能性についてもう一度評価することを求めた。数週間以内に行った世論調査で新しい原子炉を支持するアメリカ人の数は事故以前と比較し49%から41%に下がった。危険は非常に小さく、原子炉は強固に守られているという確信があるにもかかわらず、技術に対する不信感が影響している。福島の光景は危険評価の限界について実物教育をもたらした。

計画しても、原子力はいつでもブラックスワンで被害を受けるだろう。ブラックスワンとは大きな影響を持つめったにおこらない事象のことである。特にまだ一度も起こっていないような珍しい出来事は予測することが難しい。それらに備えることは費用がかかり、統計学的にも無視することが容易である。一万年にたった一度起こると推定されることが、明日起こらないわけではないだけである。プラントの典型的な40年の寿命を過ぎて、仮定はまた変わることもあり、彼らは2001年9月11日とハリケーンカトリーナに襲われた2005年の8月、福島での事故の後の3月に行った。

ブラックスワンの脅威の可能性があるリストは非常に不利な様々なものがある。原子炉とそれらの使用済み燃料プールはハイジャック機を操作するテロリストの標的となっている。原子炉がダムの下流にある場合、崩壊し聖書にあるような大洪水がおきるということもありえる。いくつかの原子炉は地震断層や津波の脅威にさらされる海岸線、さらにはハリケーンの高潮を受ける場所に位置している。スリーマイル島や福島でおきたようなそれらの脅威のうちのいずれかの一つによって甚大な被害状況が起きることもありうる。壊滅的な冷却液の不具合や過熱された放射性燃料棒の融解、さらには放射性材料の有害放射(一方チェルノブイリは炉心の融解による爆発)などが考えうる被害である。これらの状況に準備することは予算内に収めなくて良いという場合でも難しい。電気会社は原子炉建設の膨大な先行投資費用を減らそうとした。たとえ簡素化された認可と建設技術があっても、原子力プラントは現在、石炭プラントに比べ建設に大体メガワット発電当たり2倍、天然ガスプラントの大体5倍の費用がかかってしまう。この差はより低い運営費によって埋め合わせることが可能である。石炭は核燃料に比べ大体4倍、それに対して天然ガスは10倍高価である。これらの差は原子炉が何年間も最大限に稼動した場合に限られる。1970年代、80年代には、プラントはメンテナンスと安全性の問題のために運転停止したので運営の収益が減った。原子力の競争のために、供給元は建設費用の削減に加え、安全性をカットせずにより簡単で信頼できるシステムを作ることによって運転停止を減らそうとした。

もちろん、たとえ技術者が原子炉を巨大な格納容器の壁で固めたとしても、未来を予測する霊能力を持った軍隊を雇ったり防水の金庫室で覆ったとしてもいかなる脅威からも影響を受けない原子炉を建設することは不可能である。AP1000の設計では、物理や経費、災害計画などの様々な制約を乗り越えて一番良い指針を選んだと技術者達は疑いがなかった。彼らが考え出したものは、当然妥協の産物である。福島での出来事をきっかけに、真っ先に人々の心に浮かぶ疑問は”はたして原子炉は十分に安全なのだろうか”ということである。




佐藤 真吾 訳分



○災害に対する受動的な安全性

 AP1000型をはじめとするNRSが安全審査を進める「第三世代+」と呼ばれている原子炉は日本で起こった事故とは違ったものを想定して設計されていた。1979年、ペンシルベニア州ハリスバーグ近郊のスリースマイル島原発で起きた炉心融解は自然的な災害ではなく、人間のミスが原因だった。事故から数ヶ月以内に技術者たちは原子炉を改良しようと話し合い、安全機構を単純なものにして、人間が介入せずとも起動するバックアップ冷却機を付け加えることにした。AP1000型などの第三世代+原子炉がそうです。

 AP1000型の内部では閉じた配管ループのなかを冷却水が循環している。この水が炉心近くを通る際に熱を吸収しているが、高圧に保たれているために気化はしない。この配管は他の水源からの水によって冷却されている。ポンプが動かなくなったときに備えて、バックアップ用の電池があります。それもだめになった場合は自然の力で代用する。上部がドーム状である鋼鉄の原子炉格納機の内部にある3つの緊急用給水タンクから、下部の炉心へ水が流れ出すようになっている。(前ページの図より)

 電源が切れるとバルブが開き、炉心と緊急用給水タンクの間の圧力、温度差により、タンク内の水が原子炉圧力容器に流れて、燃料棒を冷却します。もし必要であれば、コンクリート製の原子炉の建物の屋上に設置されている4つ目の巨大なタンクから格納容器の上部に直接水をかけて熱を水蒸気として運び出すことができます。格納容器の内部では、炉心から上がってきた水蒸気が冷えている天井にぶつかって水滴になり、炉心に降り注ぎます。

 ウエスチングハウスの前最高技術責任者であるハワード・ブルスキ氏によれば、この4つ目のタンクは795000ガロンの水を貯めることが可能で、3日間は保持でき、ホースで水を補充することもできます。また、建物の通気孔を通して外気を取り入れ、鋼鉄製の格納容器を冷却することもできます。

 これらのバックアップ機構のいいところは(AP1000型が従来の原子炉よりも改善されたところ)、電力や人間の操作を必要としないところです。もしこのようなシステムが設置されたら、福島原発で起きたような全電源喪失(送電線や備え付けの非常用発電機からの電力供給が全て失われて、冷却用ポンプが停止する状態)は大事にはならなかっただろうと受動的安全原子炉を推進する人々は主張している。バックアップ機構が数日稼動するだけで、電力供給を復旧させるための時間を稼げるのです。

 このシステムが炉心融解と大気中への放射能漏れを防げるのかについては問題がある。第三世代+の設計を推奨している人たちは、アメリカの104基の既存原子炉よりも少なくとも10倍は安全であると主張している。他の技術者はもっと控えめである。アルゴンヌ研究所の原子力工学部門長のハリール氏はこう述べている。「第三世代+原発は既存の原発に加えられてきた改良と同程度の安全性を、自然の力を利用することによって達成しているという点が、公正な評価であるだろう。」

 憂慮する科学者同盟のシニアスタッフ科学者で産業評論家であるライマン氏はそれすらも認めようとはしません。彼はウエスチングハウスのAP1000型とゼネラル・エレクトリックの別の新しい原子炉ESBWRの両方に取り入れられたコスト削減設計に異議を唱えてきました。ライマン氏が一番懸念しているのは、AP1000の鋼鉄製の原子炉格納容器と、コンクリート製の原子炉の建物の強度です。福島原発では、冷却水面から露出した燃料棒を冷やすために閉じ込め構造の内部に冷却水を注水したが、そのとき発生する水蒸気と爆発の危険性がある水素の圧力に気をつけなければならなかった。

 AP1000型原子炉の格納容器は十分な安全性の余地が見込まれていないとライマン氏は語る。原子炉の閉塞力(圧力上昇に耐えうる力)を評価するために彼が用いている基準は、原子炉の熱出力に対する閉塞容積の比です。

 AP1000の以前には、ウエスチングハウスが開発したAP600というものがあり、それは開発したものの発電能力が小さく電力会社の支持を得られず、事業化が見送られました。AP600では原子炉の熱出力に対する閉塞容積の比は1MWあたり885キュービックフィート(約25立方メートル)で、稼動している多くの加圧水型原子炉と変わらない水準でした。しかしウエスチングハウスはAP1000で炉の出力を1100MWに上げつつ、閉塞容積はそれに比例しては拡大しませんでした。その結果、この値は605キュービックフィート(約17立方メートル)に落ちたとライマン氏は言います。格納容器と建物にはお金がかかると彼は指摘しました。

 ウエスチングハウスのブルスキ氏はAP1000がNRCの規制が求める基準を十分に満たしていると反論しました。そして受動的な安全システムによる冷却によって、重大な事故が発生した際に閉じ込め構造にかかる圧力が抑えられる可能性が高いと付け加え、この点に関しては、ウエスチングハウスも独立の原子力工学者も同意見でした。しかしライアン氏は多くの専門家が予測する値を超えて圧力が上昇するのではないかと懸念しています。

 ライマン氏が安全であると語るのは、アレバEPRという設計です。これはドイツとフランスの電力会社とヨーロッパの規制当局の協議を得て開発されたもので、NRCは現在アレバEPRについて審査を進めています。

 アレバEPRは受動的なバックアップシステムではなく、4つのディーゼル発電機と2つの発電機があり、それらは原発と向かい合う別の気密防水の建物に収められています。よって、それらが全て同時に壊れてしまう可能性はとても低いとアレバ原子炉サービスビジネスグループの技術担当副社長のマーティ・パレス氏は語ります。たとえこれらの発電機が動かなくなっても、EPRの閉塞建屋は分厚い二重壁であり、溶融した核燃料を受け止め、重力によって供給される水で閉じ込める仕組み(コアキャッチャー)も備わっている。この仕組みがあれば炉心融解と放射性物質の他の階への漏出を防げるであろう。

福田 直哉 訳分



安全性 vs. コスト

核設計者はいずれか1つのタイプの大惨事を防止すればよいというものではない。彼らは多くのシナリオを念頭に置いておく必要があります。トラブルには、異なる脅威は異なる対策を必要となり、一つのものの準備は時として他の準備を損なう。潜在的に新しいAP1000受動的安全炉に対するの最も有害な批判は、NRCの上級構造工学者のJohnMaから来るものだ。2009年に9月11日の出来事に関連して、NRCはすべての施設が飛行機からの直撃に耐えるように設計することを規制する安全上の変更を行いました。新しい要件を満たすために、ウェスチングハウスは、建物のコンクリート壁を鋼鉄の板で包んだ。


NRCが設計承認を認めた後、1974年にNRC結成以来のメンバーであるMaは、昨年、彼の経歴の初めての"不同意"の意義を提出した。その中でMaは鋼鉄板の表皮の一部はとても脆く、飛行機の衝突や嵐で飛ばされた物からの"衝撃エネルギー"は壁を突き破ると主張している。ウェスチングハウスに雇われたエンジニアリングの専門家チームはNRCの原子炉安全諮問委員会の相談役の複数のエンジニアと同様に否定しており、設計を承認・推奨している。


しかしながら、他の根本的な設計は、より安全な安全率を提示しているようだ。開発中のGen III+(第三世代プラス)のペブルベッド炉と呼ばれている原子炉は数千もの小さな粒の放射性物質を中に含むテニスボールサイズの黒鉛の球体の核燃料から熱を運ぶのに水の代わりにガスに頼っている。黒鉛は核分裂のペースを抑え、炉心がオーバーヒートしにくい。さらに、冷却ガスは蒸気に変わる水よりは爆発を引き起こしにくい傾向がある。この他にも、いわゆる小型モジュール炉は大型施設より発電量は少ないが低コストであることや熱の発生が少なく冷却しやすいことなど考慮する価値があるかもしれません。


ほとんどの核専門家はウェスチングハウスの安全性とコストの検討のバランスに満足しており、その封じ込め構造体はほとんどの事故からの十分な保護を提供していると考えています。最後に、技術者は安全性とコストのバランスをとる最善の方法を決める必要があります。



[想像力の欠如]

福島は設計の強みをこえて問題を提起する。災害の原因の一つは想像力の欠如であり、調整者や設計者に対して脆弱である。福島の施設はマグニチュード8.2に耐えるように設計され、マグニチュード9.0も安全率の範囲内だった。しかし、18.7フィートの津波に耐えられるように建てられが、46フィートの波が襲った。この高さの津波に前例がなかったわけではない。西暦869年に同規模の地震と津波がこの地区を襲ったと、カリフォルニア州メンロパークの米国地質調査所地震科学センターの所長Thomas Brocherは言う。技術者の”設計基準”の誤算があった場合、原子炉や橋や高層ビルでも、見当は外れる。


このような重大な見込み違いは米国では起こりにくいだろう。NRCは原発運転者に施設が考えられる最大の洪水、津波、地震に耐えることができることをすべての情報に基づいて実証し、”さらなる安全率を追加させる”ように要求している、とNRC の報道官Brian Andersonは言う。この基準は過去1万年間にその地域で起こった最も大きい地震を推定したモデルに基づいている。誤差を加えると一般に1.5〜2倍の規模となるとカルフォルニア大学バークレー校の地震工学の専門家でNRCの顧問のBozidar Stojadinovicはいう。


それにもかかわらず、技術者は予測できる事象にしか備えることができない。地学学者はいつも新しいリスクを発見する。数十年前には、太平洋北西部に津波が襲う可能性はないと考えられていた。その後、科学調査で赤杉の残骸が1700年のものだとわかり、その年に地震が起こったと提唱され、これの証明が日本の津波の記録から明らかになった。このような背景により、地質学者はマグニチュード9.0の地震がバンクーバー島北部からカルフォルニア北部までを襲ったと判定した。この理解はこの地域の構造物建設の設計基準を永遠に変えた。この地区の2つの原子力施設(オレゴン州とカルフォルニア州にある)はすでにどちらも廃炉になっている。


米国東海岸では地震が非常に稀なので、地震の調査は緊急性が低いとみられていた。また、ニューヨークの北にあるインディアンポイント原発は50マイルの範囲に米国のおよそ6%の人口があり、国内で最も周辺の人口密度がが高い原発だ。地震学者はその地区の断層が地震を引き起こす可能性があるか、どのように影響し合うのかについての意見が一致していない、とボストン・カレッジの地震学者John E. Ebelはいう。2008年のある研究は、不活性であると考えられていた幾つかの小さな断層は実は巨大地震をもたらすかもしれないとした。


福島は”新しい見解”が必要であると証明した、と南カルフォルニア大学の工学の教授で原子力施設の耐震問題についての専門家であるNaj Meshkatiは言う。「私たちの設計基準はありそうもない可能性に基づいて考えられている。」と彼は言う。「しかし、技術者は起きたことがないごく稀な出来事に対して設計することは上手ではない。」そのような不確定要素により、2倍の設計基準の誤差を見込んでも十分であるかどうかを知ることは不可能である。


一方、どんな人工物も100%の耐震性はない、とNRC原子力安全諮問委員会の委員Michael Corradiniはいう。「問題はあなたがどのような設計を望むか、そして、社会が理解し、その安全要素を受け入れるかである」と彼はいう。


どのくらい安全ならば十分であるのか?それが原子力のとき、その答えは代価エネルギーと我々がどの種のリスクと共存できるかを考慮しなければならない。米国エネルギー省によると、石炭火力は米国の半分の電力を生み出し、80%の二酸化炭素を排出する。原子力は20%の電力を生み出し、二酸化炭素は排出していない。クリーンエア・タスクフォースの委託で行われた2000年の研究によれば 、米国北東部のたった2つの石炭火力発電所は数万人の喘息の発作と数十万の上部呼吸器疾患の発症に関連し、年間70人が死亡している。天然ガスはきれいに燃焼するが、それを抽出するための一部の方法では、環境や人間の健康に悪影響をもたらすという証拠が増えている。


日本の事故が気づかせた不確実性は幾つかの原子炉新設計画を遅らせるかもしれない。しかし、地球温暖化の緊急性とエネルギーの必要性から原子力の復活は示唆され続けるだろう。オバマ大統領が8.3億ドルの暫定的な債務保証を発表したあと、2010年2月にエネルギー省長官Stephen ChuはAP1000を推奨した。「ジョージア州のボーグル原子力計画はアメリカが原子力技術でのリードを奪い返す助けになるだろう」とChuは言っている。原子力の実績も推進者は主張している。スリーマイル島事故では様々な心配事があったが、一人も死者は出さなかった。実績は、もちろん起きたことがないがいつか起こるかもしれないことは反映してはいない。