英文輪読第6回
 

FUSION’S MISSING PIECES Scientific American 2012.06

佐藤 真平 訳分



Fusion's Missing Pieces


無限のエネルギーへの挑戦という世界で最も複雑な科学実験はいくつかの問題に直面している。



 1985年11月、ジュネーブはエアフォース・ワンが着陸してから重苦しい空気が漂っていた。ロナルド・レーガン大統領が、この年、新しく書記長に就任したミハイル・ゴルバチョフと会談をするために訪問したのだ。

レーガンは破滅的な核戦争のリスクが高まっていることを確信し、そして2つの超大国の膨れ上がった保有兵器を削減したいと思っていた。ゴルバチェフも同様に、軍拡競争がソビエトの経済をじわじわと締め殺そうとしていることを理解していた。


 一対一の会談はすぐに上手くいかなくなってしまった。レーガンはゴルバチェフにソビエトの侵犯的行為の歴史を訓戒した。一方のゴルバチェフは、飛来してくる核兵器を宇宙空間で撃ち落とすという野心的な戦略防衛構想、通称:スターウォーズ計画を批判した。

 交渉は決裂しかけていた。朝5時、両陣営は明確な約束のない共同声明に同意した。その最後の方、ほぼ脚注と言える所に、レーガンとゴルバチェフは、「すべての人類のために」、新しいエネルギー源を開発するという曖昧な誓約を挿入した。


 その文章は、21世紀でほぼ間違いなく最も野心的な科学的企画に発展する計画を始動させた。複雑な研究技術の組み合わせの上に成り立ち、もしすべてがうまくいけば、人類のエネルギー問題の最終解決を下支えすることになるだろう。


 ITER(International Thermonuclear Experimental Reactor - 国際熱核融合実験炉)は太陽をこの地球上で再現しようと試みるものである。完成すれば稼働に必要なエネルギーの10倍の500MW程度を、全宇宙で最もありふれた物質である水素を用いて生み出すことになる。


 計画は、常にエネルギー不足の世界に対する、ほぼ無制限のエネルギー供給をもたらす技術原理の証明になるだろう。

ロシアとアメリカを含む7つの参加国の政治家達は、熱心に彼らの国の一層の努力を得ようしている。


 誕生の発端となった会談と同様、ITERは計画通りの道を歩んではいない。予算は工学的問題が官僚政治にとって都合のいい解決策を見つけるたびに倍、さらに倍に膨らんでいった。例として、資力をプールせず、参加七国は中途半端な部品をそれぞれの国で作りそれをITERの建設地である南フランスで組み立てるのである。この方法は、まるでカタログからボルトやナット、腕金を注文して自分の家の倉庫でボーイング747を組み立てようと努力するようなものである。この方法は思慮に欠けている。1年くらい前まで、ITERは地面にあけられた深さ56フィートの穴であった。それが400万立方フィートのコンクリートで埋められたのはほんの最近のことである。始動開始は当初の2016年の予定から2018年、今では2020年にまで延期された。最初の本運転実験は2026年(訳者注・2027年3月にさらに延期)までには行われない。これは建設開始の20年も後になる。


 そしてITERもまだ想像上の新しいエネルギー源の始まりに過ぎない。もしこれがうまくいったとしても、その成功に継ぐ実験炉が必要な時代が訪れる。そして電力を供給する核融合発電所の建設が各自治体で始まるのは、それらがすべてうまく稼働した後である。ITERは何十年も続く計画の一歩目に過ぎない。その計画は1世紀に及ぶかもしれないが。



 支持者達は、長い目で見ればITER抑えることの出来ない世界の電力需要に合致する唯一の希望だと主張している。しかしその彼らでさえ、その空想的予想を補正することを強いられている。現在、計画は制度という名の慣性によって進んでいるように思える。ここの政府にとって、道筋にそっている方が、一人早めに手を引いて国際社会ののけ者にされるより楽なのだ。批判家達は、その間、一つ一つのコスト超過と遅れを"弾薬"として溜め込んでいくのである。彼らは、ITERは、他の分野のエネルギー研究が猛烈に資金を必要としている時に、膨大な金額を無駄にする物だと批判している。計画が最終的に完了した暁には、ちゃんと動かなくてはならないという点ではどちらも正しいと言えるだろう。



建設上の課題

核融合の世界市

ヨーロッパ連合と6つの国が、世界で最も大規模な核融合実験炉であるITERの建設を合同で行っています。

各参加国は重要部品の供給に対して責任を負い、また順番に各国の企業と契約して必要な機材を構築することになっています。

これはつまり、超伝導コイルを供給するのが日本かもしれないし、中国かロシアかもしれないということです。

科学者たちはITERをそれらすべての部品で要求の高い環境できわめて精巧に、かつ一体となって動作する様にくみ上げなければなりません。



【付図】:核融合の世界市場

200億ドルにも上る建設費用の各国の分配関係

ヨーロッパ連合 45.5%

アメリカ/日本/ロシア/中国/インド/韓国 9.1%ずつ


各国の部品分配は…

中央ソレノイドアメリカ/日本

真空容器EU/ロシア/インド/韓国

中性粒子ビーム加熱器EU/日本/インド

高周波加熱器EU/アメリカ/日本/ロシア/インド

ブランケットEU/アメリカ/日本/ロシア/中国/韓国

ダイバーターEU/日本/中国

超伝導コイルEU/アメリカ/日本/ロシア/中国/韓国

強化コンクリート建屋EU

上野 勇人 訳分


BOTTLED SUN

 理論上、核融合は完璧なエネルギー供給源である。それは、みんなが知っている物理現象によってなされる。その物理現象とは、エネルギーが質量と光速の積に比例する(E=MC^2)という法則である。光の速度はあまりに速いため、E=MC^2はきわめて少量の質量が莫大なエネルギーを生み出すことを意味している。

 すべての核反応は、この宇宙の基本法則を利用している。一般的な原子力発電所の場合、重いウランの原子核がより軽い原子を生み出しながら分裂する。この分裂の間、ごく少量のウランの塊が直接エネルギーに変化する。核融合も同様の原理を利用している。水素のような軽い元素が衝突すると、質量が若干軽いヘリウムイオンに変化する。単位質量あたり、融合燃料は、ウラン分裂の三倍のエネルギーを放出する。さらに重要なこととして、水素はウランよりも果てしなく豊富である。そして、融合で発生するヘリウムなどの廃棄物は、放射能を出さない。「核融合は魅力的だ」ITER計画に何年もささげて来た韓国の科学者グンス・リーは言う。リーは熱烈な核融合信者である。1980年、彼は量子論を研究するために、母校であるシカゴ大学に到着した。しかし、アメリカという国が彼の考え方を変えた。“アメリカではマネーがすべてである”彼は言う。“アメリカでは、利益の生まれる見込みのない研究は盛んになりづらい”。彼はより実用的な研究テーマを探し始め、そして最終的に核融合に決めた。“核融合は科学的にも技術的にもとても難しい”彼は記している。しかし、もしそれが稼動すれば見返りもきわめて大きい。エネルギー広範囲で利用可能になり、値段も安くなる、化石燃料は過去のものとなる。世界の形は変えられうる。リーをはじめ科学者たちは半世紀もの間核融合に魅了されてきた。先駆者たちは、近い将来の完成を約束してきた。

 水素イオンはお互いに反発しあうので、それらを結合させるには強い衝撃で衝突させる必要がある、というのが課題の核心である。ITERは、磁力を発生させたケージの中で水素を加熱するという仕組みを持つ。磁力ケージの典型的なタイプはトカマク型と呼ばれる。それは、磁界を生み出すコイルを巻きつけられた金属製の容器を持つ。この磁界容器が水素を1億度以上に加熱し、水素をプラズマ化した上で、それを内部に溜め込む。

 1970年代、トカマクはあまりに有望と思われたので、研究者たちは1990年代半ばにはそれが実現するであろうと見込んでいた。唯一の課題は、研究用原子炉を実用サイズに拡大することである。一般に、トカマクが大きくなればなるほど、プラズマはより熱せられ、より効率的な核融合が可能になる。しかし、同時にさまざまな化学・物理的問題が生ずるのもまた事実である。温度が上がるにつれて、プラズマはより動き回るようになり、磁力はそれらを保持するためにより強くなる必要がある。広い空間と強い磁力を可能にするには、コイルに流す電流を強くしなくてはならない。要するに、機械が大きくなればなるほど、機械はより多くのエネルギーを消費する。この研究結果は、伝統的なトカマクだと、消費するエネルギーを上回るだけのエネルギーをうみだすことができないということを意味していた。しかし、リーたちは唯一の解決方法を知っていた。それは、超伝導磁石である。超伝導体とは、極めて低い温度において電気抵抗がゼロになる特殊な物質である。もし、トカマクの磁石に超伝導磁石を採用すれば、電流をより強くすることが可能で、さらに理論上永久的に稼動し続ける炉を実現することが可能である。超伝導技術はエネルギー問題を解決するであろう。しかし、安価ではない。超伝導磁石は非常に貴重であり、さらに常に液体ヘリウムなどで絶対零度付近にまで冷却される必要がある。

 1985年までに、ロシアにもアメリカにも、エネルギーを生み出せるほどトカマクを巨大化することは不可能であることは明白であった。ITER計画が始まったとき、それはアメリカ・ロシア・日本・ヨーロッパ連合のジョイントプロジェクトであった。ITER計画には、当時の最先端の技術が盛り込まれた。ITERでは、通常の水素よりも低温で融合が可能なデューテリウムやトリチウムなどが採用された。デューテリウムは比較的ありふれた物質で、海洋深層水などに多く含まれている。しかし、トリチウムは希少であり、かつ放射性をもつという特徴がある。ITERのもともとの設計コストは50億円とされていたが、1990年代半ばにはより完全な試算によりコストが倍増することが発表された。そして1998年には、コストがかかり過ぎるといった理由でアメリカがITER計画から一時的に脱退した。

 それからすぐ、これまでの計画に絶望していたアメリカの別のチームが計画を引き継ぎ、コスト・サイズともに従来の半分となる新たな再設計計画を打ち出した。不幸にも、“設計には時間が限られていたため、いくつかの事柄が忘れられていた”と、再設計チームの一員であるガンサー・ジェネシッツは話している。メンバーたちは、構造の隅々まで論議していたが、フィードスルーなどの細かいパーツが考慮されていなかった。ITERを実際に製作するのはITER組織自身ではないため、それ故に生じる問題があったこともまた事実である。

 ロシアや日本などの国は、国営研究所にいるイーターの研究者たちに投資をしたいと考えているが、その一方で、インドや中国などの途上国は、ITER計画に参加することで、自国の科学者やエンジニアたちに先進国の進んだ技術を学ばせるチャンスを与えたいと考えている。

トカマクで使われる超伝導ケーブルには、日本のHitachi製のものが採用されることが予定されているが、中国やロシアなどの企業も同様のパーツを開発している。つまり、見方を変えれば、ITER計画が国際間での技術競争の場になっているともいうことができる。

 フランスで開かれたITER会議において、課題は明白になった。とあるインド人が“パイプはここで終わるべきだ”と主張したのに対し、他のメンバーは“そこではなく、ここで終わるべきだ”と主張し、口論に発展。通常であれば、両者の中庸をとれば問題は丸く収まるものだが、技術的にそれは不可能であった。一連の問題はDG(イーター国際機構長)に受け渡されたが、そこでも具体的な解決は得られず、筆者は“ITER計画を成功させるのはDGの権力ではなく、メンバーの成功させたいと思うやる気である”という結論に至った。

佐久間 俊介 訳分



ROAD TO POWER



 交渉が長引くにつれITERのコストは推定200億円にさらに倍増した。しかしながら建造段階ということは正

なコストが知られていない事を意味する。それの完成日はさらに2、3年ずれこんでいる。

 特に建設費のおよそ45%を拠出するヨーロッパでは急上昇する価格と遅延の長期化が巨大なトカマクへの反

対をあおっている。「もし我々が本当に気候をまもり、エネルギー自給を得るためにお金を出すことを望むなら明らかにその実験は無意味だ」と欧州議会の緑の党へのエネルギーアドバイザーのMchel Raquet氏は言う。EUは現在、ITERが2020年までに建設を完了するために必要とする推定27億ユーロに適応する予算に従事してる。ヨーロッパでのITERの主な反対派である緑の党はその金が風や太陽光の様な再生可能エネルギーを犠牲にして成り立つことを懸念している。

 費用の9%を出す予定のアメリカでは反対はもっと落ち着いている。核活動家のThomas Cochran氏は天然資源保護協議会の一員として「脅しではなく、これはただの金の浪費だ」と話す。Cochran氏は彼のエネルギーを長期的なゴミと核兵器技術を広める他の核研究プログラムと戦うことに捧げることを選ぶと主張している。米国会議は同様にプログラムについて無関心らしい。「私に言えることはそれを止める動きはない」と核融合エネルギーの発展を支持者であるFusion Power Associatesの社長は述べている。しかしそれは変わるかもしれない。バラク・オバマ大統領が今年提供した予算は国内の核融合の研究にかなり費やすことによるITERのコストの急増に当てられる。その場合でもはITERが受け取る1億5000万ドルはアメリカが予定していた出資額より25%少ない。

 その他の国もまたITERに対する責任の問題にぶつかっている。インドは契約の分担に苦しみ、去年の5月の日本沿岸の巨大な地震は重要な施設にダメージを与えた。「どの国も彼ら自身の遅延の理由を持っている」とロシア代表団のVladmir Vlasenkovは述べる。彼が急いで付け加えるにはロシアは順調である。

 ITERは核融合が可能かどうかを証明するだろう。それは商業的に可能かどうかは証明しないだろう。それが出来ないかもしれない良い理由があります。まず第一に核融合からの放射線は非常に激しく鉄の様な普通の材料にダメージを与える。発電所は今のところ未発達ないくつかの長年のプラズマからの衝撃に耐える材料を組み込まなければならないだろう。そうでなければ原子炉は絶えず点検のために停止するだろう。その際トリチウム燃料の問題がある。それはおそらく原子炉自身の放射線を使用することで現場で作る必要がある。

 ほぼ間違いなくITERを基にした原子炉の建造の最も大きな問題は機械の信じられない複雑さである。「すべての特殊加熱システムと特注部品は実験では問題ない。しかし発電所はもっとシンプルである必要がある」と英国原子力公社のSteave Cowly氏は述べる。「あなたは来る日も来る日も機械のすべての余計な部品にまで電力を供給していることを想像できないだろう」と彼は述べる。核融合がグリッドに電気を供給する事が可能となる以前に高価な試験炉の別の世代を構築しなければならない。ITERのなかなか進まない発展のため、それらは21世紀以前に実現し稼動しないだろう。

 それらの妨げと全体として不透明な核融合エネルギーの未来にもかかわらず機械を建造できないと考えるITERを熟知した人を見つけることは難しい。周囲からの圧力が一つの理由である。「フランスはITERの一員で手を引きたくありません。なぜならアメリカがITERの一員で手を引きたくないからだ」とCochran氏は述べる。関係国の政治的認知度と早くに手を引くことへの実質的な罰則もまた計画を進め続けているとTuinder氏は意見を述べる。

 そのような合法で皮肉な、それた方向へあり続けるため理由から多くの科学者たちは純粋に核融合が世界のエネルギー需要を満たすの唯一の希望だと感じている。「私は未来の世界のエネルギーについて心配している。私はそれがどこから来るだろうかを分からなかった」とアメリカがプロジェクトに再加入した当時エネルギー部門の主任科学者だっRaymond Orbach氏は言う。それはCO2を排出せず基本的に無制限で環境への害がない代価手段として考え出されたものだ。

 大半の科学者は気候危機は避けようがないと思っている。人類がその教訓を得た後「私たちは一連の技術の準備を持っていたほうがよいだろう」とCowleyは警告する。この考えに沿えばITERは続いていくだろう。なぜならそれが不可欠だからだ。