第05回英文輪読06月04日

'中村'訳

1.3.2.2 高密度記憶装置のためのIBMのヤスデ
たとえばSTMやAFMのようなスキャン走査は原子分析によって表面を映し出すことができるだけでなく、表面に数原子幅のマークを作成することもできる。 それは長い間、このような“マーキング”案は超高密度記憶技術になる可能性があると理解されていた。 一つの有望なスキャン走査記憶装置は、IBMのヤスデである。 名前の“ヤスデ”はポリマーフィルムの小さな圧痕を作るために平行に使用される数千のAFM片持ち梁の配列に由来する。 圧痕の欠如が論理的ビット“0”を提供する一方、特定の場所の圧痕の存在は論理的ビット“1”として受け取る。 2004年にIBM研究チームは10-4よりも優れた読み取り誤差である641Gbits/in2(2004のディスク・ドライブ面密度よりおよそ7倍高い)の面記録密度で読込みと書込みをするヤスデ装置について説明した。(ポジディスら、2004年) ヤスデ計画の長期的な目標は、2005年のディスクドライブよりも二桁大きいが、約10Tbits/in2の面密度を生み出すためにわずか数ナノメートルしか離れていない圧痕をつくることである。
 図1.8は、ヤスデ片持ち梁がポリマー媒体の表面を横切って走査するように圧痕をつくることによる過程を示している。 熱機械書き込み処理は以下の通りである:先端部は片持ち梁の抵抗熱で加熱される;加熱された先端部は静電引力を用いて接触する;そして、加熱された先端部との接触でポリマーを柔らかくして、先端部への軽い荷重でポリマーを窪ませることができる。 先端部は非常に鋭いため、半径はナノメートルオーダーであり、直径数ナノメートルほどの小さい圧痕をつくることができる。 これは、超高記憶密度を可能にするものである。 読み込み処理の場合、先端ポリマーの熱伝導率を測定しながら、先端部は圧痕を横切って走査される。 先端部が圧痕の穴に入ると、増加した接触面積のために熱伝導率が増大し、圧痕の位置を明らかにする。

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'入井'訳

 ほんの数ナノメートルにわたるくぼみについて,「ミリピード(millipede)」はポリマーに対するチップの恒常的な摩擦でもナノメータースケールで損傷を受けない表面になるように設計する必要がある. 接触によるナノスケールの表面損傷は,「ミリピード」プロジェクトが直面する最も重大な問題である.
 「ミリピード」の直面する表面損傷の1種にリップル(波紋)がある.1〜30nmの高さがある. ポリマーフィルムにおいて,AFMチップとポリマーフィルムの擦れによる摩擦力によって引き起こされる.(Schmidt他,2003年) IBMの研究チームは,リップリング問題が架橋ポリマー下層により軽減できることを見つけた.(図1.8に示す) しかし,このリップリングは今もなお「ミリピード」デバイスに対する長期信頼性への懸案事項として残っている.(Knoll他,2006年)
 「ミリピード」が直面するもう一つの主要な表面損傷の問題はチップのナノスケールの摩耗である.その高い記憶密度を達成するため,「ミリピード」は何千もある半径数ナノメーター程のチップすべてに依存している. 数ナノメーターの有効半径増大によりチップが摩耗したならば,このチップでは前に書き込まれたくぼみを読むことが困難になるだろう. そして,そのチップを用いて保存されたデータは失われるかもしれない. 2006年現在,AFMチップ摩耗防止に関して信頼できる方法は報告されていない.

図 1.8 「ミリピード」カンチレバーが50nmの厚さのポリ(メタクリル酸メチル)またはPMMAのフィルムにビット“1”を書き込む方法. 基板上のチップをスキャンするように,電流パルスはカンチレバー上の抵抗加熱器を通過し,瞬間的にカンチレバー先端を400℃に加熱する. チップと基板との間の電圧パルスは,加熱チップをわずかな荷重で接触させ,軟化PMMAフィルムとチップでポリマーフィルムに“1”ビットの役割をする小さなくぼみを作る.  エルゼビア(Elsevier)の許可によりKnoll他 著(2006年)より転載.

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'池田'訳

1.3.2.3 ナノテクノロジー
ナノテクノロジーとナノサイエンスに関する現在の興奮の大部分は、原子スケールでの物質の操作だけでなく、複雑なシステムやデバイスにナノスケール構造を統合を可能にする新技術の開発によって起こる。 もしこのボトムアップアプローチが実現可能な技術になれば、ナノスケールの物体を確実に移動させ、ナノスケールデバイスに組み込むための新たな操作方法が必要とされる。 これは、摩擦や凝着がどうやって原子、分子レベルで発生しているか本質的によく理解する必要がある。つまりナノトライボロジーを理解する必要がある。
 多くの人々はナノテクノロジーを推進する際にリチャード・ファウンマンの1959年の有名な記事、「原子レベルには発展の余地がある」から次の一説を引用したがる。 「物理学の原則は、私が知る限りでは、原子単位のものを操作することの実現性に反論していません。 これはどんな物理法則にも反する試みではありません。それは原理的には行うことができるものです。 しかし、実際には我々は大きすぎるのでそれは行われていません。」
 原子・分子レベルで起きている摩擦や凝着が原子スケールの機械を開発するための主要な課題をどれだけ提起しているかというその論文のファインマン注意点は通常無視されている。

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'加藤'訳

 およそ半世紀後、新たに出現するナノテクノロジーの分野において、人々は原子レベルで少しずつ機械を組み立てていく、というファインマンの未来像を実現しようとしているだろう。 過去半世紀にわたって蓄積された摩擦と凝着の原子レベルの起源に関する我々の知識とともに、我々はまた、物質のナノレベルの断片を扱うことの難しさと巧みさについて認識し始めている。 彼の注意と平行して、事はファインマンが提唱したほど単純なものではない。
 事が分子レベルまで縮小すると分子凝着力は外力を上回る、という点でファインマンは正しかったが、一方で、彼はファンデルワールス力を除く他の多くの分子力については言及しなかった。 6章及び7章でみられるように、ファンデルワールス力に加え、他の力すなわち静電力、親水性、疎水性、構造的、二重層、そして毛管凝着力といった力は小さな物体間の凝着の一因となる。 我々はまた、現在、11章で論じられているように、2つの物質が互いに滑り合う際、摩擦の発生において分子の凝着が果たす主要な役割をより良く認識している。
 ファインマンの「ベアリングを乾かしてみよう」という言葉は、摩擦は滑っている境界面を密着しないで動いている原子間の粘性力によって発生するので、小さなすべり速度においては無視できるという仮定をもとにしている。 10章で論じられているように、現在我々は、2つの個体間に閉じ込められた分子は接触面を連結させることにより静止摩擦力を起こす、ということを知っている。 ファインマンの想像する無視できる摩擦は、接触する2つの個体の表面を不釣合いの原子構造かつ滑る境界面の相互作用が弱い状態にするようにデザインされた、注意して構成されたいくつかの実験でしか観察されなかった(11章)。 この超潤滑という現象は、ナノマシンは動くパーツ間で摩擦がほとんど、あるいはまったくない状態で作られ得る、という考えに希望を与えた。

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