第01回英文輪読04月30日
'池田'訳
なぜ世界は別のトライボロジーの本を必要としているのだろうか。 摩擦、潤滑、凝着、科学技術や日常生活での磨耗の重要性はよく知られている。 例えばあなたが歩いて部屋を横切るとき、一枚の紙に鉛筆を押し付けて横切らせたとき、またはあなたのお気に入りのペットをなでる時のように２つの面が接触するとき、いつでもそれらが検出される。 多くの優れた本がトライボロジーについて書かれているが、ほとんどが巨視的な側面の分析に焦点を当てていて原子や分子の接触面の間で起きている豊富な相互作用は歴史的にあまり理解されず、ほんのわずかな注意しか払われていない。 しかしながら、ここ数十年では多くの有能な科学者、物理学者、技術者、そして材料科学者は最終的にナノスケールのトライボロジー現象の起源の解読を始めている。 この努力によって生まれた驚異的な進歩と興奮が与えられ、今はどれだけ巨視的なトライボロジー現象が原子、分子レベルを起源としているかを強調する新しいトライボロジーの本のための適切な時期と思われる。
この本の目的はトライボロジーの汎用性の高い本に摩擦、潤滑、および磨耗のボトムアップアプローチを組み込むことである。 これは、これらのトライボロジー現象がマイクロメートルスケールの原子によって発生する方法に注目して行われる。 私は微視的な起源に焦点を当てたことは、一般的に巨視的で経験的な手段をとるトライボロジーの本によって達成されるよりもトライボロジーの優れた理解につながることを実証したいと思っている。 また読者が、残る多くの課題への感謝だけでなく、摩擦、潤滑、磨耗のなぞを解明するための分野で働いている人と同じ興奮で、熱狂することが期待されている。
'加藤'訳
この本は原子スケールからマクロスケールのトライボロジーの基礎を含んでいる。
基本的な構造は従来のトライボロジーの教科書と似ており、トポグラフィー、摩擦、潤滑、摩耗の章がある。
これらの章は一般的によく記述されるトライボロジー的現象すなわち、粗さ、弾性、塑性、摩擦係数、摩耗係数などといった巨視的概念の微視的な起源を含んでいる。
いくつかの巨視的概念（例えば弾性）はマクロ、あるいは原子規模まで大きく縮小し、一方で他の巨視的概念（例えば流体力学的潤滑）は縮小しない。
加えて、この本にはまた表面エネルギーや表面力についての章があり、典型的なトライボロジーの教科書では見られないが、スモールスケールにおいてますます重要になっているトピックすなわち毛管凝縮、分離圧力、接触帯電、分子同士の境界面における滑り、原子規模のスティックスリップ（付着滑り）を含んでいる。
この本は、上級の大学生が学ぶトライボロジー科目、あるいは多くの工学プログラムの卒業レベルのための教科書として適切である。
読者に期待される科学的・数学的な予備知識に関して、科学あるいは工学の学生が大学に入って最初の数年で出会う一般的な知識以上の専門的知識は想定されていない。
大学生が初めてトライボロジーについて学ぶことに加え、この本は他の様々な読者にも利用してもらうつもりである。
'齋藤'訳
- 微視的または原子的スケールでどのように摩擦や潤滑、摩耗が起こるかについて学ぶことを望んでいる研究者と科学者。
- 自分自身を摩擦学者と考えないが、MEMSやディスクドライブ、ナノインプリント技術のような小規模に生じる摩擦現象に正しい把握が欠かせない技術で働くエンジニアと技術者。
- この本が書かれた５年の間にわたる彼らの励ましと忍耐のため、この本を出版する機会を私に与えてくれたSonke Adlungとオクスフォード大学出版部。
- 私がイリノイ大学で研究休暇を過ごした６か月の間もてなしてくれたスティーブ教授と彼のグループメンバー。 私は、スティーヴにいくつかの図といくつかの章についての価値あるコメントに対しても感謝したくあります。
- 彼らのサポートをしてくれた私の経営陣。特に慎重に読んであらゆる章について価値のあるコメントをしてくれた私の直属のマネージャーのピーター・バンガート。
- 様々な章についてとても親切にコメントをしてくれた日立の私の同僚。
- いつも恒常的にサポートと励ましをくれた私の妻であるシェリー。
'笹崎'訳
幼少期の初め、私達は幸せや生産的な生活を送るためにトライボロジーの十分な実用的知識を全て身につけた。 幼児のように這い、私達が行きたかった場所へ辿り着くために必要な摩擦力を習得した。 ゆくゆくは、這うことから学校へと歩くことまで進んだ。 そこは時折、凍結した歩道で、もし人が寒冷気候の中で生活していたならば、滑ることや牽引できつい練習を与えられたであろう場所だ。 学校の先生が私達に椅子を後ろに動かすように頼んだとし、誰も椅子に座っていないとするならば、椅子はより簡単に引けるということを直感的に知っている。 摩擦を習得することは、私達が遊ぶ多くのゲームにおいて重大な構成要素であった。 例えばバットを握るか、走っているときと止まっているとき牽引力を保つか、ピンポン球にすごい回転をかけるかどうかである。
摩擦に加え、さらに、私達は若い年齢で摩耗と凝着に直面した。摩耗の有害な側面は、お気に入りの玩具が使えるはずだと私達が感じたよりも早くだめにした時に初めて学んだのかもしれない。 摩耗のより顕著な側面は私達が最初の木工作業で磨いたとき、そして、最初の芸術彫刻を最終的な芸術的な形に磨き上げたときに初めて認識したのかもしれない。 私達もまたクレヨンや鉛筆を紙に擦りつけたとき尖らなくなるが、鉛筆削りで削ることによって尖らせることが出来ることをすぐに学んだ。 私達の凝着の最初の認識は、誰かが”くっつく”感じがすると言った、湿気が多い日だったのかもしれない。 あるいは、おそらくそれは、どうして蜘蛛とハエが天井を歩くことが出来るのに、犬と猫は出来ないのかと初めて不思議に思った時かもしれない。
'佐藤'訳
大学で一度は、通常の化学と工学の授業で摩擦、潤滑、粘着、そして磨滅のテーマについて基本的なレベルの範囲でのみ及ぶ。
摩擦において通常教えられることの全ては、静止摩擦は動摩擦より大きいということや、垂直な接触力に比例するということ、粘性流体の摩擦は速さに比例するということである。
薄膜潤滑の原理はレイノルズ式の解法の例のように流体工学の発展授業でのみ範囲が及ぶ。
磨滅はトライボロジーの専門的な工学授業でのみ簡単に範囲が及ぶが、にもかかわらず不十分なメカニズムとして普及している。
そして粘着は化学結合や重合体物理学の過程の中で付随的に範囲が及ぶ。
我々がどれだけ日常生活の中と科学技術の広範囲で摩擦、潤滑、.粘着、そして磨滅のトライボロジー的現象に遭遇するかを考慮すれば、これらのテーマが我々の現在の教育制度でわずかにカバーされるだけであるのは困るかもしれない。
著者の意見では、単科大学と総合大学に間違いはないが、むしろ大部分のトライボロジーの現象の物理学の発端を相互に接続させて、本質的に複雑にさせている。
多面的な性質は、エンジニアと科学者が大部分のトライボロジーの現象の仮説を発展させることを難しくさせる。
その代り、経験的に引き出された傾向（例えば、摩擦は荷重に比例する）はしばしば利用できる唯一の予測ツールだ。
これらの経験的なアプローチは限られたパラメータを越えた時のみ予測に欠点があります。
根底にある物理のメカニズムが十分に理解されていないので、しばしば人はどちらが重要なパラメータであるのかということさえわからず、さらにどの範囲で観測された範囲が有効なのかということもわからない。
同様に、純粋に分析的アプローチが試みられるならば関連したパラメータの知識の不足は、トライボロジー的挙動の不正確な予測にしばしばつながる。
この貧困な予想力は一層科学的な規律としてより、魔法の多くのように大量の科学の四分の一の中で認められているトライボロジーの分野を先導した。
予測力の不足は多くの状況で適用性が疑わしい場合があるトライボロジーの概念において多くの時間が過ごすのを教育者が嫌う理由になることもある。
'定嶋'訳
例えば、もし硬材の床を横切って滑っている椅子に作用している摩擦力を分析したいならば、最も功利的な取り掛かりは、摩擦係数またはμと呼ばれる比例定数によって通常摩擦が積載力（椅子の重さとそれに座っている人）と比例していることを示した過去の経験的な研究を利用することであろう。
この取り掛かりを使い次の段階は、実験から、どのようにμが、滑る速度、木材の硬さ、床の磨き剤の種類等の摩擦影響により疑われるパラメータに依存するか決定することである。
2,3時間の実験のあと、どのように摩擦がこれらのパラメータに依存するかというよい考えを持ち始めるが、更なる実験なしだと、例えば硬い木の床を引っ掻くのを防ぐために椅子の足のそこにフェルトの詰め物を加えるという新たなパラメータが導入されたらどのように摩擦が加わるのか予測するのに苦労するだろう。
多くの摩擦学問題が依然として経験的な調査を通して最も取り掛かられている一方、この種の調査はこの本の焦点ではない。
その代わりに焦点は、摩擦学現象の自然的起源とどのようにこれらを理解することが摩擦学的問題への分析的な取り掛かりを展開するのに用いられるかということである。
本質的には目標は、魔法のような部分を少なくし、さらなる科学の努力で摩擦学を捉えることである。
これは摩擦、潤滑、凝着、そして摩耗の摩擦学的現象がどのようにスモールスケールで発生されるかまた同等にどのようにミクロスケールの原子で起こっている自然現象が、ついにはマクロスケールな摩擦理論現象に繋がっているか強調することでなされるだろう。
読者が摩擦理論的現象のナノスケールでの起源の強烈な理解を得て、分析法の適用、またはよりよい経験的な取り掛かりを展開して、彼らが新しい摩擦学的問題に取り組むことが願いである。
'豊﨑'訳
1.1 なぜ摩擦学と呼ばれるのか。
摩擦、潤滑、粘着、磨耗の微視的な期限の追跡は最近の科学的活動ではない。
何世紀にもわたってその起源が熟考され、ここ何十年では完全に科学を先導する流行になり、挑戦が取り上げられている。
ミクロ的アプローチの早くからの先駆者で優れていた人の一人はケンブリッジ大学のデイビット・タボール（1913－2005）である。
タボールとこの時期に、この分野でほかの人々が直面した不満は、接触している物体間に起こるこの学問の分野に取り巻いている、すべての現象の科学的名称の欠乏である。
用語の欠乏は科学的なコミュニティーないのその分野での威信と尊敬の確かな地位を奪うものであるように思われた。
[例えば、ケンブリッジのキャベンディッシュ研究室のタボールの同僚たちの何人は、軽蔑して彼らの研究グループのことを”研磨・洗浄部”と呼んだ
反対に、タボールは第二次世界大戦時中にメルボルン大学で実際的な潤滑油、ベアリング、火薬について先頭で研究している間に研究グループに摩擦物理学という名前を作り出した。
これは、ギリシャ語の研磨という意味のtribosから由来している。
1966年、イギリスの教育と科学省の委員会によって作られたヨーストレポートはこの分野全体に公式にトライボロジーという言葉を発表した。
これはタボールの早い時代の摩擦物理学という言葉に由来している。
一方で、トライボロジーの正確な翻訳は”研磨の科学”で、ヨーストレポートでは”相対的な運動での表面への相互作用に関する問題と実際の科学と技術である”というより長く、いくらか不十分な定義が採用されている。
ヨーストレポートの後、トライボロジーという名前は急速にこの分野の公式な名前として確立され、今では一般的にこの話題にかんする新聞、本、雑誌、講座や制度などのタイトルになっている。
'中村'訳
トライボロジーの名は確かに科学技術の有効な規律として分野の信頼性を増している一方で、この用語は分野外ではあまり知られていない。
そのためトライボロジー研究者は以前にそれを聞いたことがない人たちに言葉を説明し、トライボロジーが“トライ・アゲイン・ボロジー”を表すという主張でからかおうとする科学者に立ち向かう準備をする必要がある。
1.2 トライボロジーの経済的、技術的重要性
1966ジョースト報告書の目標の一つは、トライボロジーによる障害に関連した不必要な摩耗、摩擦、および故障を最小限にするためのより良い技術的手法の開発と採用を通して達成されうる潜在的な経済的節約を文書化することだった。
イギリス内で可能な節約は、そのGNPの1％とほぼ同等であると推定された。
ジョースト報告書以降、他の機関も可能な節約を評価して、一致した見解は現在、トライボロジーへの適切な注意を通じてGNPの1.3％から1.6％が得られる可能性があるということだ。（ヨースト1990）
これらの潜在的な経済的恩恵が長い間認識されてきた一方で、これはいつも、多くのトライボロジー研究者によって保証されるように感じられる、トライボロジーの研究や開発への投資の水準で追い討ちをかけられてきたわけではない。
おそらく、トライボロジーの研究を支持することへの不本意さの主な要因はその歴史的な“魔力”という文字から来ていて、これは提案されたトライボロジーの研究がどれくらい成功しているか疑問に呈する傾向がある。
うまくいけば、この本はトライボロジーの問題に取り掛かるための合理的かつ科学的な根拠を示すことにより、これらの疑問を減らすのに役立つだろう。
トライボロジーの科学についての疑問を減らす他の方法は、いくつかの成功事例を通して示す。
'入井'訳
1.2.1 トライボロジ―の成功事例
1.2.1.1 自動車の摩擦の低減
自動車やトラックの燃費を改善することは，長きにわたり自動車産業の主要な技術目標であった．（Tung，McMillan (2004)）
燃料効率を改善するための明白な方法は，摩擦によるエネルギ損失を減らすことである．
標準的な車について，エンジンによって生み出されるエネルギは次のように消費される．（Pinkus，Wilcock (1978)）
- 12%は慣性や転がり抵抗，空気抵抗などに打ち勝って車輪を駆動させることに消費される． これは実際に車を前に押し進めるエネルギである．
- 62%はエンジンの熱によって失われる．
- 16%は吸気や排気，いくつかのファンとポンプを動作させることによるエンジンの損失だけでなく，ピストンやバルブトレイン（カムシャフト，バルブなど），軸受などの動作によるエンジン内部の摩擦によっても失われる．
- 10%は変速器や差動装置，車軸軸受の摩擦により失われる．